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らんま1/2の二次創作&日々の徒然なること…?
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「乱馬、少しは隠して食べるってことしたら?」
「いーだろ、ひなちゃん先生の授業なんて、自習みたいなもんなんだから。あかねだって似たようなもんだろ」

授業が始まって早々、教師であるはずのひなちゃん先生こと二ノ宮ひな子は、黒板に落書きを始めたまま、生徒を放置していた。
毎度のことであり――気まぐれで時々授業にもなったが――慣れている周囲は、ここぞとばかりに睡眠を取ったり、別の授業の準備をしたり、漫画を読んだり、談話したり、と好き放題。
乱馬はというと、机に教科書を立ててはいるものの、お弁当箱を持ち上げて、食べることに夢中になっている。
かくいう注意したあかねも、先ほどの自習で出た宿題を広げているのだが。

「あたしは勉強だもん」
「……はあはねはんは、はひへへははぁ!」
「中をなくしてから喋ったら? 何言ってるかわかんないわよ」

一瞬で食べ物を口いっぱいにして話す乱馬に、あかねは呆れを含んだ溜息をつく。
誰も取らないというのに、必死で食べるその姿に、「もう少しゆっくり食べたら」と、付け加えようとしたが、言う間を与えなかった。
ごくん、と乱馬が喉を鳴らしたと同時に、お箸がぴた、と止まったと思うと、ごちそうさま、と乱馬は手を合わせ、小さく呟いたために。
こういう所は、意外ときちんとしてる乱馬。
厳しい修行の中、食べ物を得る大変さを知る故か、乱馬は食への執着も強いが、その分感謝の気持ちもきちんと持っている。
更に、食べ方も綺麗で、お弁当箱はご飯一粒も残っていない。
あかねはそんな姿を好ましいと、密かにずっと思っていた。

お箸を片付け、お弁当箱を包む。
ふっと手元に視線を送ると、手際よく、そしてしなやかに動く指先が目に入った。

「……何だよ」

綺麗な指とその運びに、思わず見惚れていたことに気づく。

「べ、別に! 良く食べると思ってただけよ」

見惚れていたなどと、素直に言えるはずもなく、あかねは慌てて話題を変えた。
すると乱馬はじとっとあかねを睨めつけた。

「誰のせいだと思ってんだ……」
「な、何よ」
「誰かさんの料理のせいで腹壊して、昨日はまともに飯食ってなかったからな。腹が減って腹が減って――」

そして遠い目をしながら、ふっとわざとらしい笑みを浮かべた。
思いがけない話題に、あかねはバツが悪くなる。

「……っ! 何よ、修行が足りないのよ」

昨日――
日曜日だった昨日、乱馬とあかねを残して出かけた家族たち。
朝昼はかすみがいたからいいものの、夕食はなかったため、命の危険を感じた乱馬は外食を提案したが、あかねは作ると聞かなかった。

――大丈夫! あたしを信じて!!

と、嬉しそうに、そして力強く言ったあかねだが、結果は散々だった。
故に、誰のせいか、と言うのがわかり過ぎており、しかも逃げずにいてくれただけに、あかねは乱馬に悪いと思っているが――済んだことを蒸し返されたことにムッとする。

「ちゃんと頑張って作ったもん」
「ちゃんと!?」

ぷい、と窓の方を向いてしれっと言うあかねに、乱馬は思わず声を上げる。

「おめーなぁ……味見したか!? してねぇよな! いーーーっつも言ってるけど、味見をしろって!」
「しなくても大丈夫よ!」
「大丈夫じゃねーから、あんなもんが出来るんだろ!」

その言葉に、カチン、と来たあかねは乱馬に視線を戻す。

「あんなもん!? 人が一生懸命作ったのに、そんな言い方ないでしょ! バカ!!」
「何だと!? 大体、一生懸命なら何でもいいってことじゃねーだろ! 味見するのと……頼むから本はちゃんと読めって!!」
「本!? 読んでるわよ!」
「読んでねぇ!」
「読んでる!」
「読んでねぇ! じゃあ聞くが、一体どこに、あの料理が載ってるんだ!? ったく、このままじゃ一生治らねーぞ!! 付き合う俺の身になれ!!」
「治らないって……病気じゃないわよっ!! 見てなさい! 今にヒドイこと言ってすみません、って謝ることになるんだから!!」
「その前に俺が死ぬ!!」
「なっ……何ですってーー……」

死ぬというその余りの言い草に、あかねの背から、怒りのオーラが立ち上がる。
そして、ぷち、っと音がしたことに気づいた乱馬は身構えたが――





「早乙女くん、天道さんにご飯作ってもらったの? いいなぁ~」





揃って、声のする方に視線を向け、固まることとなった。
指をくわえながら、料理の実力など知る由もないひな子が、無垢な瞳で乱馬とあかねを見つめていたために。

「へ……?」
「え……?」

更に、ひな子に倣い、それぞれ色々な作業をしていたはずの生徒全員も、乱馬とあかねを見つめて――見上げていた。

ヒートアップし、立ち上がって言い合いしていたことに気づく二人。

(マズイ……)

だが、時、既に遅し。

「やぁだ! 乱馬くん、あかねの手料理食べたんだ!」
「あかねの手料理ってことは、二人きりだったの!?」
「羨ましいぜ乱馬!!」
「この幸せものーーっ!!」
「夫婦愛だな、夫婦愛!!」

教室中が、からかいの言葉で埋め尽くされ、夫婦だの、愛だのという言葉をイチイチ否定してみるものの、誰も聞いていなかった。
極め付けに――

「そのうち死ぬってことは、また食べるってことだろーー」
「付き合う俺の身、ってことは、一生付き合うのね」

「本当、見せ付けてくれるわよねぇ」
「本当、見せ付けてくれるなぁ」

そんなこと言われては、乱馬もあかねも真っ赤になって、言葉を失うしか出来なかった。




早弁しただけなのに、それだけで、話題を作ってしまう二人。

言葉には、気をつけよう、と今更ながらに思う二人であった。






一日を想う10のお題/通常学校編 より  配布サイト:tricky voice サマ
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「好きだからでしょっ!!」
「俺だって好きだからっ――」

勢いよく出た互いの言葉に息を呑み、真っ赤になる二人。
興奮と照れの気持ちでいっぱいなのだろう。
そして、一瞬、躊躇う。
だが、想いが昂ぶったのか、まるで自然に縮まる距離。
それは、双方、ファーストキスだろうと思える初々しさであり、思わずこちらまで恥ずかしくなるもの。
そうして二人はしばし余韻を楽しんだ後、手を繋いでその場を離れた。



「な、何かえれーもん見ちまったな、あかね」
「……も、もうっ、これって覗き見じゃないっ!」
「べ、別に俺のせいじゃねーだろ! 大体、授業中だってのに勝手に向こうが始めたんだぜ!? 不可抗力だろっ!!」
「そ、そうだけど……」



当事者でもないというのに、顔を見合わすことが出来ず、真っ赤になる、乱馬とあかね。
これは偶然で、覗き見などするつもりはなかった。
たまたま、体育館での授業の際、体育館裏にある倉庫へ物を二人で取りに行く用事を頼まれ、たまたま倉庫に行くまでの道で勝手に繰り広げられた故、目にした光景だった。
角を曲がれば倉庫、というところで男女の大喧嘩が始まり、何だと思って様子を伺うと――という顛末であった。

緊張もピークだったのか、人の気配など感じなかったらしく、ある意味迷惑千万な出来事。
乱馬は全く悪びれていないが、反してあかねは、一番見てはならないところを見た、と罪悪感たっぷりだった。



「えっと……い、行くか」
「あ、うん。そ、そうね」

二人が去り、倉庫前が開放され、気まずさ千パーセントのまま、向かう乱馬とあかね。
微妙な関係を保っている二人が見るには、あのシーンは非常に問題であり、こちらの空気までもおかしくなる。

「ったく……じゅ、授業中に何してんだ」

倉庫に入ると、二人きりの空間が誇張され、益々気まずいのか、乱馬は何とかそれを払拭しようと、頼まれものを捜す。
あかねも気まずさを忘れようと、背中合わせに立ち、乱馬のそれに倣う。

「あ、あんただって変わらないわよ。寝てて授業聞いてないんだから。それに隣は自習でしょ。でもあの二人なら抜け出したのがわかったら大変よね」
「何で、んなことわかるんだよ」

きょとん、とした風の声。

「あんた知らないの――?」

有名なのに、と言いかけて、あかねは言葉を呑む。
学校一のお騒がせ有名カップルと言われるこの二人で霞むが、先程の二人もつかず離れずの幼なじみで、乱馬とあかね同様に、どうなるかと、興味を置かれていた。
腐れ縁とも言える、ある意味似た立場。
乱馬とあかねが先か、先程の二人が先か、と、水面下ではちょっとした話題になっていた。
と、あかねはさゆりやゆかに聞いて、「頑張れ」とエールを送られていた。

乱馬がそんな話題に興味を持ち、知っていると思わず、故に、更に微妙な空気にしないためにも口を噤んだ。

「――隣が自習って有名なのかよ」
「えっ?」

求められていた回答は違ったらしく、笑いの混ざった言葉。
その続け様に出た、「あった」と言う乱馬の言葉に、あかねが振り向いた。

そこで初めて、目が合った。

「……先、こされちまったな……」

それは小さな呟き。
声が出せず、ただただ目を見開くあかねに、乱馬は我に返ったように慌てると、「も、戻るぞ!!」と足早に倉庫の扉を出た。

「えぇっ……!? ちょ、ちょっと!!」

噂を知っていたことにも驚くが、何より――

(先をこされたってことは……――)

いずれ、そうなるつもりでいる、ということを示す。

とはいえ――本心を聞ける訳もない。
あかねは、期待と不安とが混ざり、靄がかかったような心を抱きながら、乱馬から少し遅れて、その扉を出た。



こんな調子で、しかも大分時間も経ってから戻った二人。
よって、逆に「何をしていたのか」と問いただされ、益々気まずい想いをするのであった。






一日を想う10のお題/通常学校編 より  配布サイト:tricky voice サマ

あたしはただ、乱馬に1歩でも近付いて驚かせたかっただけ…それだけだったのに――

今更悔やんでも、悔やみきれない。伝えたい人物に、もう伝える術がないのだから






運命の迷宮






きっかけは、ある日の稽古後の乱馬から出た言葉だった――





「おめー、腕鈍ってんじゃねーか?」
「そ、そんな事ないわよ!」

そう否定しながら、しかしあかねは内心ギクリとしていた。

珍しく穏やかな日々が続き、そんな中、久々に乱馬と道場で一緒に稽古したあかね。
だが、あかねの繰り出す拳は一向に乱馬を捕らえる事は無く、全て軽く避けられていた。
様々な死闘を乗り越え、めきめきと力をつけて来た乱馬。
一方、日課としての修行のみを何とかこなして来ていたあかね。
そんな乱馬の経験値から比べれば仕方のない事だが、出会った頃のあかねから比べると右肩上がりとは言えず、確かに体が思うように動かなかった。
否、乱馬の言う通り、腕が鈍っているとあかねは感じていた。
手合わせ中のことを思い出しても、乱馬を捕らえるようとするが、目で追う事で精一杯であり、拳は半ばヤケクソの様に繰り出していた。
昔はここまで乱馬との差は無かったハズ――それがあかね自身の感想だったのだが、現在は歴然としている。

「おめー最近稽古サボッてばっかいるからなぁ?」

そんな気持ちを知ってか知らずか、乱馬は近くにあったペットボトルの水をこくりと飲むと、あかねに目をやった。

「調子が乗らなかっただけ!! そんな事ないわよ!!」

あかねは核心を付かれ、再びぎくりとするが、元来の負けず嫌いから、そう強気で言ってのけた。
すると乱馬はニヤリ、と笑みを漏らし口を開いた。

「明日から俺、修行に行くけど、差がまたまた大きく開いちまうぞ~!」

明日から冬休み。
それを利用し、また正月までという期限での修行故、そんなに長くないが、その短期間が乱馬の言う通りの差となる。
挑戦的とも言える言葉とその眼差しは、あかねの負けず嫌いの心に益々火を付けた。

「なっ……!! 見てらっしゃい! あたしだってあんたがいない間に、一段と強くなってるから!!!」

その言葉に乱馬は一瞬目を見開く。
それがどういう意味での表情か、思わず問おうとしたが――しかし乱馬がすぐ元の表情に戻すと楽しげに口を開いたため、機会を失った。

「期待してねーけど、ま、そう言ったからには頑張れよ。……さーて今日はこの位にしておくかなっと」

昼から始めた稽古だったが、気づけば日が落ちている。
ぐん、と伸びをする乱馬の言葉に、あかねも「そうね」と頷くと、二人は稽古を切り上げることにした。

腹減ったなぁ――と、零す乱馬。

「あんたって、稽古の時以外そればっかりね」
「うるせーなっ! 腹が減っては――だろ?」

くすくすと笑いながらの言葉に、乱馬は捻くれた口調で返すという、いつもの軽口を叩きながら居間へ向かう。

だがその時――あかねはその大きな背中を見つめながら、静かに新たなる決意をしていた。





⇒NEXT
バタン! と勢い良く開けるドア。
乱馬と、遅れてあかねがその勢いにまかせて部屋に入ると、なびきの姿が視界に入った。
ベッドに寝そべって雑誌を読みながらせんべいをかじっていたなびき。

「くぉらっなびき! どういうつもりだ!!」

そのなびきに近づき、凄む乱馬だが――

「――どういうつもりはこちのセリフよ。レディの部屋にノックもなしで入って来るなんて」

乱馬の勢いに反して、冷静に言葉を返す。
この温度差にいきなり出鼻をくじかれそうになるが、しかし負けじと乱馬は口を開いた。
今回ばかりは自分たちが正しいという自信のもとであり、言い訳できるはずはないと。

「おめーにそんな礼儀必要ねー! いいからこれを見ろ!!」

強気でそう言うと、乱馬は持っていた雑誌をなびきの目の前に落とした。
何よ、となびきはため息交じりでその雑誌に視線を向ける。
するとしばし考え、まるでワザとらしく「あぁ~!」とぽんと、手を打った。

「これね? あらら、見つかっちゃったか――マニアック雑誌だったのに」

身を起こしてそのページを見つめたまま、なびきは肩を竦める。

「でも良く撮れてるでしょ?」

そして挙句、そうしれっと言いいながら微笑んだ。

「おねえちゃん!! そういう問題じゃないでしょ!」
「おまっ……反省の言葉はないのか!? 反省の言葉は!!」

全く悪びれていない言葉に乱馬とあかねは声を上げる。

「はぁ? どうしてあたしがあんたたちに反省しなくちゃいけないのよ」

だが、乱馬とあかねが責めたところで、なびきは気にしていなかった。

「どうしてじゃないわ! ちゃんと説明してよ! この写真、合成までして一体どういうつもりなのよ!! お陰であたしたち、大迷惑したのよ!!」
「はは~ん、なるほど……あの三人が見つけたのね。目ざとい……」

二人の責めよりも、何故ばれたのか――原因の方が気になるらしいなびきは、顎に手を当て頷いている。
その姿は、この期に及んで何かを企んでるらしくも見え――

「おねえちゃん!!」

お答えにならない言葉に、あかねが苛立つように名を紡ぐと、まぁまぁとなびきは制した。

「この写真、合成のわけないでしょ。大体そんなことしたらプロに一目でバレちゃうもの」
「……は? ま、まてよ! じゃぁこれ――」

記憶にありませんという乱馬の反応に、なびきは逆に呆れたように口を開く。

「ホント、あんたたち――って乱馬くんが覚えているはずはないわよね。ほら、いつものパターンじゃない。まぁ何度もあったら覚えてもないでしょうけど」

乱馬は首を傾げていたが、あかねはピンと来たらしく、真っ赤になった。

「この時のがホント良く撮れたのよねー。これ、猫になった後のアンタをあかねが押さえてるところ」
「なっ――……!?」

猫――唯一の弱点を強く差し出されたら、乱馬は猫に同化しようとし、記憶をそこから一切失う。
故に、写真を見たところでわかるはずもない。
いつも意識がないとはいえ――否、ないからこそ無意識に甘えているその姿は、自分の素直な姿を示しているようで、乱馬は真っ赤になった。
そしてあかねはあかねで、そんな乱馬を前に、まるで愛おしそうに見つめている。
無意識とはいえ、そんな自分の姿をなびきの写真で目の当たりしたのだ。
写真は気持ちを如実に語っていると言うのか――コメントし難い自身たちに、強気な姿は消え、微妙な空気が流れた。

「……ちょっと、やめてよ。いちゃつくなら別の部屋にしてちょうだい」

原因を作った張本人であるというのに、なびきは不機嫌そうにそう言い放つ。
そして問題は片付いたとばかりに、先ほど同様ベッドに沈み、雑誌に視線を落とした。

「じょ、冗談じゃない!!」
「ばっ、誰がいちゃつくか!!」
「それに前から言ってるけど、あたしたちでお小遣い稼ぎをしないでよ!」
「そうだ! 人の不幸を金にするなんて、なんてヤツだ!!」

なびきの姿に我に返り、そして責めるように言葉を紡ぐが、なびきはひらひらと手を振りながら、笑う。

「人聞き悪いわね。何言ってんの~。あんたたちの結婚資金になるんだから、感謝しなさいよ!」

そして、「あ、そうそう」と、なびきは思い出したように近くにあった財布を手にすると、一万円札を取り出した。

「謝礼よ。デートでもして来たら」

片目をぱちん、と器用に瞑るとその一枚のお札を乱馬とあかねに差し出すなびき。

「そういう問題じゃないでしょ!」
「まぁまぁ、いいじゃない。こういうものは快く受け取るのが礼儀よ」
「お前っ……」

無茶苦茶な言葉で言いくるめようとするなびきに、色々まだまだ言いたいことのある二人は、ジト目で睨みつける。
が、それを言わせることなく、なびきは遮った。
お父さんたちにこの本見せたらどうなるかしらね、と。



一枚も二枚も上手であるなびきに言葉を失う二人。
そう脅されては、結局打倒なびきなど出来ることもなく、一万円札を片手に、その部屋を出た。



酷い目には合ったが――
貰った折角の一万円。
故にその分け前を快く使おうとした乱馬とあかね。
だが――



タダより高いものはない



とはこのことか。
今度はデートの写真を撮られ、なびきは新聞部に売ると言う荒業を見せた。

渡された謝礼は倍以上になったであろうなびき。
抜かりない"あね"の姿に、乱馬もあかねも自分たちの甘さを痛感するしかなかった。



そして
幸せの瞬間――
写真は間違いなくその言葉を映し出していたが、それは二人の過ごす時間だけではなく、なびきの幸せのための瞬間という意味ではないかと、乱馬もあかねも感じていた。
以前なら、苦労していた鬼ごっこだが、しかし何度もやられれば――何より自身の過酷な修行の成果がここにも活かされていた。
幸か不幸か。


「……"晩飯"のためなのね」
ぽつり、と呟かれたあかねの言葉。
わかっていても、思わず出てしまったそれに、口元を押さえる。
「は? 何て言った!?」
が、屋根を飛び跳ねるたびに受ける前から風のせいか、その声は消えてしまったよう。
それは乱馬から返ってきた声の強さでわかる。
消え去った言葉に安堵しながら、あかねは口を開いた。

「別に! ねぇ、そろそろ下ろして欲しいんだけど!」

照れ隠しに出た言葉は、思った以上に不機嫌であったため、乱馬が軽く眉を顰めた。

「助けてやってそんな言い方しか出来ねーのか? 可愛くねーヤツっ!!」

言いながら、屋根から身軽に飛び降りると、まるで負担がないかのように、軽く着地する。
一体どうすればそんな風に――と思えるほどの、優しい振動。
と、同時に、ゆっくり下ろされ、しばらくぶりに地に足をつけ、そして並んで歩き出した。
荷物は相変わらず乱馬が、そしてあかねは渡された雑誌だけを持って。

かさかさと、袋の音をさせながら、歩く家路。

「ったく、何してたんだよ。皆待ちくたびれてたぞ」
「……だって、訳のわからない言いがかりつけられたんだもん」
「訳のわからない言いがかり? いつものことじゃねーか」
「そうだけどっ! でも今日のは・・・」

先ほどの憎まれ口を忘れたかのように、不思議そうにしている乱馬にそう言いかけて、あかねは一瞬躊躇った。
が、しかし隠したところで、日を改めてでも――下手したらすぐ晩にでも来るかもしれない三人。
それを思うと何も知らない乱馬へ、逞しい想像力のまま何か言われてはたまったものじゃない。
雑誌を乱馬に押し付けた。

「身に覚えの全くないこと!!」

ページを開いたまま胸に押し付けられたそれを乱馬は受け取ると、その見開きに視線を落とす。
そして固まった。

「げぇっ!!何だこれっ!?」

足を止め、目を見開いている乱馬は、あかねに視線を移す。
それを受けて、あかねは思い切り首を振った。

「し、知らないわよ!! 大方おねえちゃんが、合成とか何かしたんでしょ」
「なびきのやつ……」

文句を言いながら、乱馬は雑誌をくいるように見つめると、「おい……良く見ろよ」と、あかねの元にその雑誌を戻した。

「え?」

どこのことかわからずに、相変わらず幸せそうな二人を見るだけだったが、乱馬はあるところを指差す。

「ここ――」

そこには、賞金五十万円の文字。

「えぇっ!? こんなに!?」
「……なびきのヤツ、最近羽振りがいいとは思っていたが……」

乱馬はそう言うと、しばしの後、ニヤリと笑った。

「これ、俺たちにも貰う権利あるよな? モデル代として」
「え? それは……」

確かに乱馬の言う"権利"はあるが――

「――でも、あのおねえちゃんよ。一筋縄でいかないと思うけど」

今までの経験上、なびきはびた一文出した試しはない。
よく勝手に乱馬共々運動部に借り出されることがあった時でさえ、借り出された本人の懐に入ったことなど、ない。
本来、そんなことがあってはならないのだが。
とにかく、どんな正論でも、理不尽な答えて丸め込むのが、なびき。
そして姉妹であっても容赦ない。

とはいえ――
「どう合成したのか知らないけど、本人の許可なく撮ったんだから――とりあえず文句は言えるよね。それに言いがかつけられて、迷惑も被ってるんだし!!」

あまりにも身に覚えがないことで、トラブルに巻き添えほど腹の立つことはない。
言葉にすると、段々怒りが心頭し始めるあかね。

「そうだぜ! いつも俺たちばっかり損してられねー! いいか、あかね。今日こそはなびきにガツンと言ってやろうぜ!」
「そ、そうよね! うん、頑張ろう!!」

そして、この写真のことも聞き出さねばならない。

乱馬とあかねは、打倒なびきを掲げながら、二人並んで再び歩き始めた。





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