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らんま1/2の二次創作&日々の徒然なること…?
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「乱馬」
「………」
「ねぇ、乱馬……怒ってるの?」
「……別にっ」

乱馬と並んで、柵にもたれるあかね。
右に立つ乱馬の顔を覗き込もうとしても、ぷい、と反らされる。

「じゃあ、こっち向きなさいよ」
「俺は今あっちを見てる」
「何それ……」

拗ねた口ぶり。
機嫌を治す方法を考えてみるものの、思いつくのは食べ物で釣ること。
それ以外持ち合わせてはいないことに気づき、あかねは何だか急激に情けなく感じ、思わず溜息を零す。

「東風先生の――」
「っるせーよ」
「もうっ、やっぱり怒ってるじゃない……」
「………」
「あのね、さっき言ったことだけど、身体のことは本当よ。元気過ぎる位だから動きなさいって」

その言葉に、乱馬はあかねの方に向いた。
乱馬はじっとあかねを見つめたと思うと、視線を反らした。

「乱馬?」
「悪ぃかよ……」
「え?」
「心配しちゃ悪ぃのか? 元はと言えば俺のせいだろ? 俺はおめーを死なせるとこだったんだぞ。あんなっ……」

だから――と続いた言葉と同時に、だん、と右手で柵を叩きつける乱馬。
そこには思いつめた顔がある。
やはり、未だ気にしていたことに胸を痛めつつ、視線を合わせない乱馬のその横顔を見つめる。

「ごめんなさい」
「……何で、あかねが謝るんだよ。俺のせいだろう」
「だって……」
「………」
「だって、あたしが無茶したせいで、乱馬に迷惑ばかりかけて……」
「なっ! 迷惑なんかかけてねぇだろ」
「でも、何も役に立たなくて、心配かけただけだし……あたしのせいで……泉も――」

恐る恐る言葉を紡ぐと、ふっと戻った乱馬の視線。
右腕を柵に預けたまま、身体ごとあかねの方に向くと、乱馬から小さな溜息が零れた。

「あん時も言っただろう、泉はあかねのためだけに欲しかったって。大体、んなもんより、あかねの方が……」

大事だろ、と聞こえるか聞こえないかの小さな声が続いた。

「乱馬……」

嬉しいと思うことは、不謹慎だし、罪だと重々承知している。
けれども、少し前まではこんな言葉が、あかね自身聞けるとは思っていなかったし、乱馬も言えなかったかもしれない。
呪泉郷はそれほど、意地っ張りな二人を変えた。

「それにそもそも呪泉郷でのことは俺が蒔いた種だ。今までのことだって……。俺のせいでおめーを危険に巻き込んでばかりだった。俺がいなければ、あんな目に合わすことはなかった――」

眉を寄せ、悲しげな乱馬の表情にはっとする。
たまに覆われる負の気は、己の存在を否定してのもの。

(……そんなの、そんな風に思ってたなんて――)

「何よそれ……本気でそんなこと思ってるの?」
「………あぁ」

至極真面目な顔での返答。
あかねは怒りがこみ上げ、乱馬の両腕を思い切り掴んだ。

「っ!? あかね?」
「……許さないから……」
「え?」
「そんな勝手なこと言って――……さっきから聞いていれば、自分だけ傷ついたみたいな顔して……不安な顔してっ……大体あんたは全然わかってない!! あたしがいつもどんな気持ちでいたと思ってるのよ! 待つってどれだけ辛いか知らないくせに!! 呪泉郷のことだっていつも蚊帳の外で――折角役に立てると思ったのに、結局足手まといになっただけで……」
「あかね……」
「言っておくけど……いなくなったりしたら、絶対許さないから!!」

描く未来に、己がいなくても、平気なのか――

泣くまいと決めていた。
だが、あかねはこみ上げてくるものが止められず、目頭が熱くなったと思った途端、頬を伝うものを感じた。

「え? お、おいっ!? な、何で――」
「起こってもいないことに不安がって……あんたにとって、あたしはその程度なの!? あたしと離れても全然構わないのね!!」
「はぁっ!? んなこと言ってねーだろ!! 俺は、もう二度とあんな目に合わせたくないだけで――」
「なら、そうならない様に、一緒に戦えばいいじゃない!! なのにっ……逃げるなんて……!!」
「あかね……」
「ばかばか!! 乱馬のばか!! あんたなんか……っ!!」

大嫌いよ……――と、零しながら、あかねは乱馬の腕からゆるゆると手を離し、俯いた。

乱馬に勝てないのはわかっていた。
けれども、想いは対等でありたかった。
守り、守られ、同じ目線にいたいと思ってたのは、己だけか、そう思うとやりきれない気持ちになった。

「あかね……」

そっと触れられた、あかねの腕。
払ったが、今度は離すまいとばかりに、強く掴まれていた。




⇒NEXT
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少しでも動けば、触れそうな距離。
背中に手を伸ばそうと、あかね自身の意思で近づいておきながら、躊躇う指先。
あと少しの勇気がいつも足りなくて、知ることが出来ない気持ち。
そのために、いつまでも何も変わらないことはわかっている。
けれども――

伸ばした手を拒絶されたら――
何より、ここにいることさえも疎まれていたら――

それが怖い。

「……おい?」

至近距離にいながら、行動も、言葉も何もないあかねに痺れを切らしたのか、かかった声。
思考の渦にとらわれていたあかねは、その声に我に返る。
自然と俯き加減になっていたらしい視線を上げると、乱馬の顔が少し、こちらに傾いていた。
乱馬の顔が全部見える訳ではないが、困った様な、照れた様な、複雑そうな表情が想像ついた。

「らしくねーな……気持ち悪ぃ」

視線を空へ戻しながら、紡がれた言葉は素っ気無いが、嫌がってない。
きっと。

(……誰のせいだと思ってんのよ)

少しムッとしながらも、その小さな怒りを飲み込む。
そんな言葉を吐けば、乱馬から自惚れた言葉が返ってくるのは、あかねには容易に想像がついた。
何より、らしくないと言えば、乱馬だってそれは一緒。

こんな時だからこそ、"らしい"も必要ならば――

「何よ、それはあんたで……しょ」

同時に、身を翻し、その背を倒れこむように乱馬の背にぶつけた。
あかねにかかる少しの衝撃。

「ぐえっ!! な、何すんだよ、あかね!」

思い切り衝撃がかかり、前のめりになったことで、柵がお腹にめりこんだろう乱馬。
小さな呻き声と非難の声が上がるが、あかねはそれを無視して、前のめりから姿勢を元に戻した乱馬の背にもたれたままの姿勢でいた。

「お、おい? な、何だよっ……」
「何が?」
「な、何がじゃねーよっ!!」

いやに冷静なあかねに対し、あたふたしながらも、身動きの取り様のなく、その場で固まる乱馬。
言葉なく、しばしじっとしていると、背中の触れている部分が次第に熱を持つ。
それは乱馬なのか、あかねなのか、どちらが熱いのかわからない。

手を伸ばすことをあんなに躊躇いながら、結果、指先で触れるよりも大胆な行動。
我ながら、勇気を盛大に使い切ったと、あかねは思った。

次第に鼓動が強く跳ね始め、ふわり、と風が二人を包む。
寒いはずのそれは、不思議と心地よかった。




「お、重いだろ」

ようやく、出た乱馬からの言葉。
気の利いたそれなど、期待はしてないし、その方が"らしい"と思うとあかねは小さく笑っていた。

「何だよ……」
「別に。鍛えてるくせに、情けないなぁ、と思って」
「う、うるせー……それとこれとは別だっ」
「一緒よ。あたし一人位、どーってことないでしょ!」
「どーってことある! だ、大体……おめー、前より重くなってねーか」
「……!!」

図星。
思いがけない言葉で、あかねの頬に、違う熱が持たれた。
しかし、それは乱馬の失礼な言葉に対してではない。
思い出した、つい最近の東風の言葉だった。

「あー重い! 重い!! おーもーいっ!!」

そんなことを知る由のない乱馬は、くやしくてあかねが言葉を失っていると、思っているだろう。
してやったりとばかりに、くくくっと笑うとその言葉を繰り返す。

楽しげな乱馬に、何と言ってやろうか――どんな反応をするだろうか、そう思いながら、あかねは口を開いた。

「……あんたのせいよ」
「はぁ? 何で俺のせいなんだよっ。太ったのを人のせいにすんなよ」
「嘘じゃないわ。ホントよ。……呪泉郷から戻って来て――」
「え……」

そこで、乱馬の背がぴくり、と反応する。
それは、今までと違った暗い声色。
勘違いしているのでは、と、あかねは慌てて言葉を続ける。

「あっ、あの、しばらく大人しくしてたら、太ったの。おば様のご飯もおねーちゃんのご飯も美味しいし、つい食べ過ぎるし、お菓子にも手が伸びちゃって……この間、東風先生もさすがに運動した方がいいって言われちゃった」

小さく笑うと、乱馬からも、「あぁ」と、つられたように笑いを含んだ言葉が返って来た。

「……大人しくってよりも、ダラダラしてたもんな」

余計な一言をつけて。
あかねが、うるさい、と背に体重をかけると、大げさな呻き声が響いた。

「そうそう、でねー、続きがあるんだけど……東風先生ったら、あたしが太ったの、乱馬にも責任があるって。乱馬が過保護過ぎるせいだって。愛されてるねーって」
「え゛っっ!?」

愛されてる――思い切り強調すると、勢いよく、振り向く乱馬。
その勢いに飛ばされて、あかねは前のめりになりそうになるが、「悪ぃっ」と咄嗟に伸ばされた乱馬の手が腰に周り、地面との衝撃になる所を、救ってくれた。
大きな手は、やはり頼もしく、温かい。
ほう、と安堵の溜息がしたと思うと、乱馬に姿勢を正されるあかね。
そこで、ようやく向かい合いになった。

「もうっ、何するのよ!」

危ないわね、と怒りを含んで非難しながら、視線を上げる。

「お、おめーがっ……!!」

すると、そこには顔も耳も真っ赤で、掴まれた手も――
恥ずかしさと困惑と、最初とは全く違った複雑な乱馬の表情と出会い、思った以上の反応に、あかねは思わずふきだした。

「なっ……!? て、てめー……からかったな!!」
「ち、違わよっ…で、でも……」

わなわな、と拳を震わせて、あかねを睨み付けるが、迫力はゼロ。

「あはは……そ、そんな真っ赤な顔ですごんでも――怖くないわよ!」

笑うあかねに、言い返す言葉が思いつかないのか、ムッとした表情でくるりと空へまたも視線を戻した乱馬。
こんな時、いつもなら恥ずかしさから逃げ出していた乱馬だが、その場に留まったまま、不機嫌な背中を見せる。
だが、その背中からは、負の気が少し消えていた。




NEXT
乱馬を追って教室を出たあかね。
既に乱馬の背が小さくなっていたが、追いつこうとはせず、距離を保ったまま歩く。
先ほどひな子に名を呼ばれたが、すぐに諦められたのか、はたまた生徒が止めたのか、強く呼び戻す声はなかった。

授業は始まっており、周囲は静まりかえって、廊下に響くのはチョークの音と、教師の声のみ。

(……乱馬)

その背を、足音を立てない様にあかねは気をつける。
それは、乱馬に気づかれないためではなく、乱馬を追っていることを他のクラスの皆に気づかれたくないため。
気配を消すことを得意とする乱馬と違って、あかねは慣れていないため、必死だった。
廊下側の窓はすりガラスのため、誰が歩いているなどは見えないだろうが、それでも気を使いながら、早足の乱馬と距離が出来ない様にする。
乱馬はとっくに気づいているだろうが、振り返ることもないし、歩く速度を緩めない。

曲がり角に差し掛かった乱馬。
そこで背が見えなくなって、あかねは思わず走った。

「あ……」

案の定、消えたその姿。
行き先は何となくわかっているし、いなくなる訳ではないというのに、急く気持ち。
曲がり角のすぐ傍には階段がある。
あかねは迷わず上った。





一つ階を上がりきると、そこにあるのは鉄の扉。

(きっとここにいる……)

あかねは小さく深呼吸をし、扉を押した。
それほど力を必要としないはずの扉。
だが、その先に広がる外の世界から圧されているのか、簡単に開かない。
ぐっと、足を踏ん張り、身体を使う。
すると静かに開いたその細い隙間から、強い風が吹きすさんだ。

「っ……!」

扉を押し返され、思わず目を瞑りそうになるほどの風だが、何とかゆっくり目を細く開く。
その視界遠く、乱馬の姿が見えた。
乱馬は、柵に腕を乗せて、空を眺めている様。
あかねはほっと息を吐くと、更に力を込め、己が通れるだけ扉を開いて足を踏み入れた。





歩み寄ると、そこにあるのは不機嫌ですと言わんばかりの背中。
顔を合わせる気がないのか、無言のまま空を見つめたまま、背中を向けている乱馬の後ろにあかねは立つ。
人、一人分の距離をおいて。

「……乱馬。やっぱり屋上にいた」
「んだよ……」
「んだよ、じゃないわよ。授業サボって」
「そういうおめーもだろ」
「だって……」
「だって、何だよ」
「え……」

あかねはそこで初めて気づく。
何と言うつもりだったのか――何も考えておらず、勢いだけでやって来たことに。
僅かな後悔と、困惑を抱く。

多分――
呪泉郷のことを思い出した。
多分――
己のことを連想した。
多分――
それが快くなかった。
多分――

それは全て、あかねの想像だけでしかない。
別に乱馬が"それら"を持ち出して、怒った訳じゃない故に、それを以って言葉を紡いだりしたら、自惚れていると、バカにされるかもしれない。
様々な想いがあかねの脳裏に過ぎり、追って来ておいて、己に何が言えるのか、と思う。

(……ううん、でもここにいなくちゃいけないはず)

目の前の乱馬を覆うのは、"あの時"の負の気に似ている。
だから、と、言い聞かせる様に、あかねは頷いた。

あの時――呪泉郷での出来事は二人にとって、一時トラウマとも言えた。
意識を落としたのは、僅かな時間。
けれども、その出来事は、その瞬間の乱馬にとって、大きな傷となった。
そして、巻き込んでしまったという己自身への怒りへともなっていた。

そのせいか、しばらく乱馬はあかねを常に気遣い、小さな異変にも過剰に反応した。
日本に戻ってから、医師――幼い頃からお世話になっている東風とも相談し、一応激しい運動を控えたりして体調を見守ろうという程度に反し、乱馬は異常なほど過保護だった。
もちろん、茶化したりする、家族の前以外の場所でだが。

そんな中、検査もこなし、あかねの健康に東風の太鼓判が押されたその時、ようやく、取り戻した安心感。
それでも、何かのきっかけで思い出され、その度に乱馬は何かしら反応してしまう様だった。

大げさね、と思えど、もし、乱馬の立場が己であれば――想像するだけで、あかねは涙が浮かぶ。
乱馬が、こんな風に、同じ様に感じているのかはわからない。
けれども、あかねならば、これからという時間(とき)を描く中で、乱馬がいないなど、想像が出来ない。
こんなに己は弱かったのか、と、呆れるほど、あかねにとって、乱馬はなくてはならない存在だと、嫌という程身にしみており、誰よりも大切な男性(ひと)だった。

――乱馬が好き

今更、己の心中では気持ちを否定などしない。

だからこそ――

(……ここにいなくちゃいけないんじゃなくて――ここにいたい)

手を伸ばせば触れられう程、すぐ傍にいるというのに、何故だか遠く感じる存在。
例え心は通じ合ってなくとも、少しでも心を近づけたい。

(……今、何を感じているの?)

目の前にある大きな背中に触れることが出来たら――

あかねは一歩足を踏み出した。




NEXT
「彼を守るため、身を捧げる……ロマンチックよね……」
「そーよねー! 彼のために命を賭す――素敵よねー! 愛よ愛!!」
「「本当に良かったよねーこの映画!!」」

1-F あかねの席。
そこであかねの親友、さゆりとゆかは、うっとりとした表情のまま胸元で手を組んで、どこかの世界に意識を飛ばしている。
それは連続一位を取り続けている、ファンタジー映画の話題。
先週末、二人で見に行ったその感想を、週が明けた今、あかねに報告していた。
もちろん、あかねも誘われたが、気乗りせず、後ろめたい気持ちになりながらも"用事がある"と嘘をついてしまった。

気乗りせず――それは映画の内容にあった。
姫と騎士という身分差の恋、中世をイメージしたラブストーリー。
それはいいのだが、命を賭して、姫が愛する騎士を救い、その姫を失った騎士は絶望しながらも、立ち直るという、そこが問題だった。

以前ならば、一緒に騒いでいたかもしれないストーリー。
けれど、あかねはつい先日の己自身を思わず連想してしまい、イマイチ話には乗れなかった。

「あかねもそう思うでしょ!!」

問いかけに我に返ると、あかねの席の前に立ちながら、身を乗り出し、あかねをじっと見つめる二人。

「え……う、うん……」

心の中では同意出来ない気持ちがあったものの、勢いに圧されて、あかねは思わず頷く。
友人たちは知らないのだから、罪はないと、思ってはいるものの、居心地の悪さを感じていた。



死――



大切な人を救いたいという一心で、身体が動いていた、呪泉郷での戦い。
そこで、あかねは命を落としかけたが、それを必死で拾い、救ってくれたのは、乱馬だった。
いつも、いつも守ってくれるのは乱馬だった。
どんなに悪口を叩いても、最後は守ってくれる――改めてそれを強く感じ、そして乱馬と気持ちが少しだけ、たった少しだけれども、通わせることも出来たから、良い思い出で終わった、そう思っていた。

だからこそ、もしかしたら"こうしていられなかったのかもしれない"、と、ふっとした瞬間、恐怖が訪れることもあった。

あかねは思わずちらりと乱馬の様子を伺う。
すると、近くで悪友の大介やひろしと大声を上げて笑っており――

(バカ……)

何だかわからない小さな苛つきを覚え、思わず溜息が漏れた。
それを見たゆかとさゆりは顔を見合わせると、悪い笑みを浮かべる。

「乱馬くーん!」
「……あん? 何だよ」

甘えたさゆりの呼びかけに、明らかに不機嫌そうに返事する声。

「ちょ、ちょっと!」

自意識過剰かもしれない。
けれど、きっとこの話題は乱馬もいい気持ちはしないだろうと思い、あかねはさゆりを止める。
だが、そんな声など届くはずもなく、ゆかとさゆりがちょいちょい、と手招きすると、乱馬に続いて大介とひろしも、何だ何だと、あかねの席の側にやって来た。

「この映画、いいのよー! 乱馬くんにオススメなんだけど!」
「……は?」

言いながら、さゆりは見に行った際に購入したパンフレットを机に広げる。
大介とひろしは、あぁ、あれか、と見た瞬間にわかったものの、乱馬は首を傾げる。

「あかねと観に行って欲しいわ!」
「ねぇーー!」

何で俺があかねと、という否定の言葉を紡ぐが、二人は聞きもせず、再びうっとりとした表情を浮かべ、簡単にあらすじを述べ始めた。
しぶしぶと、それでも話を聞きながら最初は頷いていた乱馬。
だが、話が進むに連れて、次第に乱馬の眉が顰められた。

マズイ、と思ったあかね。
やはり無理やりでも止めれば――と後悔しつつ、何とか終わらせようと口を開こうとしたが、遅かった。

「これ、あかねと乱馬くんなら、あり得そうよねー!」
「おぉ。乱馬なら省みず、あかねのために飛び出すに違いない!」
「あかね命、だからな!」
「あかねだってきっとそうよー! キャー、ロマンよロマン!!」

と、乱馬を小突きながら、いつもの様に四人はからかう。
その騒ぎに教室中が楽しそうな視線を向け、日常化とした趣味とも言える、からかいの光景。

だが、内容が、悪い。

あかねがそう感じた瞬間、ぞくり、と背筋が凍った。




「くっだらねー」




不機嫌そうな表情での、腹の底から響くような声。
大きな声ではなかったというのに、教室に響き渡り、周囲のざわめきが止まった。

四人にとっては、"いつもの"からかい。
だが、乱馬は"いつもの"慌てふためきはなく、たった一言そう呟いただけで、教室から出て行ってしまった。

「な、何だ……?」
「……あ、あたし何か変なこと言った!?」
「な、何か悪かったか!?」
「ど、どうしよう!?」

四人は、いつもと様子の違う乱馬に戸惑いを覚え、オロオロとしながら、あかねを見た。

「乱馬っ!」

だが、あかねは救いを求める様な四人に「ごめんね」の一言のみで、勢い良く立ち上がると、その背を追った。
遠くで、教師のひな子の声が聞こえたが、それに答えている暇は、あかねになかった。





NEXT
一日を想う10のお題(一応連作)



 1 二限目の重役出勤

 2 数学は睡眠時間

 3 気まずい体育館裏

 4 昼食フライング

 5 渡り廊下で拾った運命

 6 ベランダ密会

 7 あひるの危機を回避せよ

 8 屋上謳歌!

 9 うるさい理屈をまき散らせ

 10 明日を待つ教室





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