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らんま1/2の二次創作&日々の徒然なること…?
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ひとつ屋根の下に贈る5つのお題 1(連作/乱あ交互視点)

 1 これは誰かの陰謀か?
 2 ぎりぎりの境界線
 3 意外すぎた真実
 4 戸惑いを断ち切れ
 5 さりげなく、告白


ひとつ屋根の下に贈る5つのお題 2

 1 ドアを開ければヤツがいる
 2 買い物に行こう!
 3 "今更"
 4 背中あわせ
 5 教えて、君の言葉で


配布サイト:tricky voice サマ
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「ここ、来てみたかったのよね! 何にしようかしら~」

楽しげなあかねの声を耳にしながら、乱馬はため息をつきながらメニューを広げていた。



ここは天道家から十分程歩いた場所、住宅地から少し離れた場所にある、CAFE。
最近出来たばかりで、近い場所にありながら、しかし中々来ることが出来なかった。
あかねはしきりに行ってみたいと繰り返していたが、一緒に行くことを乱馬はずっと拒んでいたから。
というのも、何せ、この内装、カーテンやテーブルクロスなどはレースやピンクでまとめられており、置かれた小物もぬいぐるみやら、とにかく女の子らしい雰囲気で、男が入るには少々、否、かなり勇気がいる。
だから――のハズだったが――

――ねぇ、乱馬。晩ご飯、食べに行かない?
――あの店、行きたいの。ランチだけじゃなく、夜のメニューもあるのよ!

帰宅して、着替えを済ませたあかねは、居間にいる乱馬にそう声をかけて来た。
あの店――それだけでどの店を指すのかすぐにわかり、内装を思い出して思わず顔を歪ませると、あかねは見て、と紙を差し出した。
その紙には、OPEN三ヵ月記念らしく、先着で食後にお好きなデザートをプレゼントとあった。

――あのお店のパフェ、評判なの知ってるでしょ。だから、ね。

噂は聞いており、そして値段が意外と張ることもありどんなものかと興味はあった。
それに後押しされたように頷いた乱馬だが、別に好物のパフェだけに釣られたわけではない。
密かに晩ご飯にも頭を抱えていた乱馬だっただけに、あかねの誘いを断ることなど出来はしなかった。
あかねの料理は……という出来なので。

二人きりだということ、そして色んな意味で安心してしまったこともあってのことだが、それは秘密である。






(…それにしても………俺だけか? こんなに意識してんの)

悶々と考えつつも、平静を装う自分に対して、いつもと変わらない様子のあかね。
一時、よく何かにつけてこうして二人にされたこともあり、慣れた、と言えばおかしい話だが、今までやり過ごしてきた時と変わらない。
が、あかねはそうでも、自分は違う。

もう少しこのままで――今まではそう願っていたが、変わりたい、今はそう願う気持ちが大きく占めていた。

誰にでも優しく、日に日に綺麗になるあかねに視線を向ける輩は増える一方。
そんな中でも、乱馬は許婚という立場のために、誰よりも二人の距離を近くさせているけれど、そんな絆で傍にいることを欲しているわけではない。
そんなあかねの心が、全てが欲しいのだ。

強くなる独占欲。
しかし、誰よりも大事で、大事にしたいからこそ、こんな仕組まれた形で何かが――だけは避けたかった。

だから、この環境は、乱馬にとっては怖かった。
だのに、こんな風に思うのは自分だけなのか、そう思うと落ち着かない気持ちになる。
全くの無防備さで近づかれたりすると堪らない。
かと言って、妙に意識しすぎてギクシャクするよりもいい気もするが――

(はぁ……)

矛盾した気持ちをぐるぐると巡らせながら、小さくため息をつき、そしてあかねの様子を伺おうとメニューからちらりと視線を僅かに上げる。

(………あれ……?)

と、慌てて視線を落としたあかねがいた――気がした。

「えぇっと……リゾットも捨てがたいけど、このパスタセットも良さそうよね」

唐突に出た、言葉。
相変わらず楽しげな声だが、しかし見えたその笑顔に少し違和感を覚える。

「…ねぇ、乱馬は何を食べるの?」

いつもなら、真っ直ぐ見て話しかける、あかね。
しかし、今は視線を落としたまま、熱心そうにメニューを見つめる。

「…まだ、決めてねーけど、おめーは?」
「あたしも、まだ決めてない。でも……別にゆっくり決めればいいよね。だって時間はいっぱいあるし……」

その言葉に、心臓が、波打つ。
長い時間をどうすべきか――これからのことをふと浮かべ思い悩んでいると、ねぇ乱馬、とあかねは苦笑しながら顔を上げた。

「ズルイよね、みんな。いつもコソコソして。あたしたちなんか蚊帳の外」
「……あぁ」

唐突に変化したあかねの表情と今更な言葉の意味するところがわからず、戸惑いがちに答える。

「それに……信用されてないのよね……違う、諦め、かしら」
「え?」

ぽつりと呟くその言葉は段々小さくなり、最後の方は聞き取れなかった。
信用されてない――それは聞こえた乱馬だが、あかねの言わんとしている意味がやはりわからなかった。
首を傾げるが、そんな乱馬を他所にあかねは再びメニューに視線を落とした。

「何……」

意味と後に続いた言葉を問おうとしたが、しかし妙な議論に発展することを恐れ、開きかけた口を閉ざした。


あかねの言葉を反芻させながら、乱馬はあかねと同じ様に視線をメニューに落とす。

(……逆に変に信用されてるから、この状況下に置かれてるんじゃ……違うのか?)

わからない、その意味。
いくら考えても無駄だと思うと、そこから離れようと首を左右に振り、ちゃんと食べるものを決めようとメニューを眺めた。






ひとつ屋根の下に贈る5つのお題1 より  配布サイト:tricky voice サマ
「今日、俺たちだけだと」
「そうなるわね……どうしよう……」

晩ご飯……言いながら、あかねは部屋に向かうために、階段を上った。






「はぁ~……。もう、信っじられない!!」

自室に入ると同時に、あかねはかばんを床に放ると、制服のままベッドに倒れた。
ベッドのスプリングが軽く弾み、身が少し浮くが、再び沈むと身動き一つさせず、視線だけベッドを寄せている壁に向け、意味もなくじっと見つめる。

(…普通に言えたよね)

そして先ほどのことを反芻した。






――ただいまーーっ!

明日から三連休。
あかねは楽しい休みを思い浮かべながら、うきうきした気分で元気よく戸を開けた。
が、戸を開けて目にした玄関に、そしていつもなら、小走りでやって来る姉のかすみや乱馬の母のどかの出迎えのないことに、あかねは嫌な予感を覚えた。

この時間は、天道家ならば、誰かしら必ずいるはずだった。
親たちは道場が――仕事にもならないが――仕事場で、姉のかすみは家事をする時間。
なのに、物音一つなく、そして玄関は靴一つのみ。

(…まさか)

そんな気持ちを抱きながら、靴を脱ぎ、階段を上りかけたところで「あかね」と声がかかった。

それは、居候兼許婚の乱馬の声。
靴は彼の分のみだったから、いるだろうと――彼しかいないであろう――と気づいていた。

――なぁ、知ってたか? 皆、泊まりだったってこと

呆れと諦めを含んだその言葉。

(…や、やっぱりーっ!?)

あかねの予感は的中した。


それは世間一般的に考えると、非常識も甚だしい。
しかし、それが通用しないのが、自分たち家族。
常日頃から、あわよくば既成事実を・・・などと、両家の親が口を揃えて子の前で言う位で、そんな親は他には絶対にいない。

三連休ともなれば――何故気づかなかったのかと、自分の鈍さを呪わしく思う。
そして、乱馬は相変わらず何を考えているのかわからない、あかねはそう思った。

あかねは動揺のあまり、激しく波打つ心臓を押さえ、何とか平静を保ったつもりだった。
なのに、乱馬は、そんな重大なことをしれっと言いのけた。
振り返って見た表情も、何らいつもと変わらない。
故に、過剰に反応すると、変に意識していると思われてしまう。

――知るわけないでしょ…

あかねはそう言って、ふいと、視線を反らすと、階段に足を向けた。

――…今日、俺たちだけだと

とん、と足を踏み出したその時、出た改めての状況を示す時に出たその言葉に、あかねはどくん、と更に胸が弾むが、しかし、気にしないフリを装ってそれに返答した。
とても、顔を見て言えなかったが。






「はぁ~……どうしよう」

ごろん、と寝返りをうつと、天井を見つめる。
もちろん、晩ご飯のことなどではない。
先ほどのそれは咄嗟に出た、ごまかしの言葉であり、どうしようの意味は別の場所にある。

好きな人と二人っきり――嬉しいはずなのだが、しかしこのシチュエーションは今のあかねにとって複雑だった。

あかねは、意地っ張り許婚のラインをずっと保っていた。
今のあやふやな関係に、心地よさを感じることもある、なんて言ったら臆病かもしれないが、そのラインを超えることを、そして何かが変わってしまうのではないのかというのが怖かった。
何より、その想いを拒絶されることが――

好きだから、それ故に。

素直になれない、のではなく、素直にならない、ようにしていた。

けれど――

あかねは深いため息を吐くと、ベッドから身を起こした。

もし、乱馬自身が自分を想いそれを超えようとしてくれたら――とも思う。



(あたしったら何を……)

が、そう思ったあかねは苦笑すると、「あり得ないわ」小さく呟いた。






ひとつ屋根の下に贈る5つのお題1 より  配布サイト:tricky voice サマ
既に授業が始まっているというのに、現れない先生。
期待に胸を高鳴らせながら生徒たちは、ざわめいていた。

いつもなら、と言ってもどの授業も真面目に聞いている例(ためし)はないが、数学の時間となると最初から眠る気満々である乱馬も活き活きとした表情でいる。

ガラリと戸が開き、職員室に呼び出されていた日直が戻って来た。
日直の男子生徒に、自習、そう告げられて、期待通りとばかりに歓声が上がったのだが、

「この時間内に出来なければ、宿題だって~」

その後ろからひょっこり現れた女生徒の手にあったプリントと、言葉でそれがすぐに非難の声に変わった。




「んも~、これなら授業の方がマシよ!」

さゆりは机に突っ伏して先ほどから文句ばかりを吐いている。

「本当ね、難しすぎてこれじゃ早く終わって……なんてこと全然無理じゃない」

目の前に机をくっつけているゆかもため息交じりで、こんがらがるような数式を目の前に、シャーペンで机をとんとんと叩いている。

「ゆかの言う通りね。でも、そんなこと気にしてないのもいるけど……」

向かい合わせになっているさゆりとゆかの机の横に、所謂王様席のように机を設置させて座っているあかねは呆れを存分に含んでそう言いながら、ちらり、と視線を教室の後ろに向けた。
その視線の先には、紙を丸めてボールにし、柄がプラスチックで出来た小さなほうきをバット代わりに、乱馬と大介、ひろしを中心に、複数の男子生徒がミニ野球をして盛り上がっていた。
机や席を強引に前に寄せさせてスペースを作っているのだから、周辺は迷惑極まりないという表情をしている。

自習となると誰よりも活き活きする、三人組。
一年生の時、乱馬がこの風林館高校に転校して来てから見事なコンビネーションを見せており、この学校はクラス替えがないために二年になった今も、F組筆頭の悪ガキとして、必ず、騒動の真ん中にいた。
かくゆうあかねやさゆり、ゆかも、乱馬とあかね繋がりでそこに巻き込まれることも多々あるので、周囲から見ればある意味、六人組と称されることもあるのだが。





ぎゃはは、と響き渡る笑い声。
ほとんどはいつものことと諦めているが、真面目に取り組みたい人は迷惑そうにため息をついている。
プリントに向かいながら、頭をかかえているのを見て、言っても無駄だと諦めている様子が伺える。

「ちょっと! あんたたち、静かにしなさいよ!!」

さゆりは、立ち上がると、そんな人のためにか、びしっとそう言い放つ。
普段は人をからかうこと――乱馬とあかね限定だが――ばかりして、ふざけているイメージが大きいが、こういったところでは意外に真面目であり、何より男子生徒にも強いので注意するのは適役とも言える。
その声に、遊んでいる男子生徒たちが一斉にさゆりたちの方を向いた。

「いいじゃねーか、折角の自習なんだから」

そして、固いこと言うなよ~、と遊びを楽しんでいる大介がヒラヒラと手を振る。

「このプリント、やらなくちゃ宿題になるのよ! 考えている人には迷惑よ!」

真面目に取り組んでいる人から、そうよ! と後押しが入るが、

「俺たちだって、真面目に取り組んでるじゃねーか――」
「――ゲームに」

ひろしと、乱馬は顔を見合わせ、そして周囲の男子も揃って笑っていた。
バカにしたような物言いに、さゆりはムッとする。

「あんたたち、いいの~?」
「何がだよ?」
「言っておくけどこのプリント、いつも以上に超~難しいのよ。特に、乱馬くんは大変だと思うけど?」
「うるせー! ったく失礼なヤツだな。それに俺は別にかまわねーんだよ! あかねの写すし」

乱馬から、まるで当たり前のように言い放たれた言葉。

「なっ……」

普段から宿題を教えるために、どれだけ時間を費やしていると思っているのか――感謝もしていない様子の乱馬にあかねはムッとする。
あかねはじろ、と乱馬を見据えると、

「……言っておくけど、あたし、今回の宿題は見せてあげないからね!!」

冷たく言い放った。

「げっ! マジかよあかね!!」

慌てる乱馬だが、ぷい、とあかねは視線をそらす。
「部屋に来ても入れてなんてあげないからっ」
そして、そう言った。

すると、騒がしかった教室がしん、となった。

「「……ん?」」

急に静まり返った教室。
訳がわからず、あかねは思わず再度乱馬の方に視線を移すと、案の定乱馬も何だ?と首を傾げていた。

が、それは一瞬で、すぐにわぁっと大騒ぎになった。

「えっ? えっ?」
「な、何だ!?」

あかねはさゆりやゆかに、乱馬は大介やひろしに肘でつつかれたり、してニヤニヤと笑われる。

「何だ、じゃねーよ! ったく、ちゃんと宿題してくるからおかしいと思ってたら……」
「そりゃそうだよな。そんなオイシーシチュエーションがあれば、いくらでも頑張れるよな……あかねと二人っきりになれるんだからな」

ぽかんとしていた乱馬とあかねだが、ようやくそこで言わんとしていることに気づく。

「ばっ……何を……っ!?」
「えぇっ!?」

狼狽する二人を他所に、周囲は宿題をそっちのけで、興味津々とばかりに騒ぎ立てる。

「お前ら、違う勉強もしてるんじゃないだろ~な」

大介はそう言うと、ひろしに向かって、あかねっ、と言いながら抱きつき、それを見て、キャー、と声が上がった。

「ちょ、ちょっと!! 変なこと言わないでよっ!!」

あかねは真っ赤になって否定する。

「お、お前ら~~~っっ! んなわけねーだろっ! こっんな、色気のない女に手を出すか!!」

乱馬もわなわなと震え、真っ赤になりながら声を荒立て、そう言い切った。
そして、大体だな・・・とぶつくさと、あーだーこーだと悪口を言い始めた。
すると、周囲が乱馬から静かに離れ始めた。
と同時に――

「色気がなくて……」

あかねは立ち上がると、がた、と自らが座っていた椅子を片手で引くと――

「悪かったわねーーーーーーーっっ!!!!」

そう言い放つと、あかねの手から椅子は離れ、乱馬に飛びかかっていった。

ガツンッ!!!

見事、直撃。
椅子にノックアウトされた乱馬。



今日の数学の授業。
乱馬はいつも通り、眠っていた。






一日を想う10のお題/通常学校編 より  配布サイト:tricky voice サマ
カッカッ、と黒板に次々と書かれてゆく文字。
視線が黒板とノートを何度も往復し、余りにも長い文字の羅列に、首を動かすのにもいい加減疲れて来ている。
あかねはうなじに左手を添えて左右に首を揺らした。

(やだ、皆……)

首を動かした時、視線に入ったクラスメートたち。
ノートを眺めている様に見せかけて、眠りについている者がほとんどであった。
気持ちはわからないでもない。
興味を引くような楽しい話のある授業でもなく、チョークが黒板に当たる音の合間に初老の教師の低い穏かな声で、マニュアル通りの言葉を並べるだけであるのだから。
更に言うならば、昨年までは石油ストーブだけで冬は凍えそうであった教室だったというのに、勉強しやすい環境を――と、最近設置されたエアコンのお陰で暖かく、設置した目的とは逆効果で、間違いなく眠りを促進させていた。

あかねは幸いなのか、眠りには誘われてはいなかった。
しかし、視線をノートに落としても、書いたその意味はわからず、授業を理解出来ない――否、聞いていないという部分では、眠っている皆と変わらない。
意識を授業とは別の場所にすっかりおいており、黒板に羅列された文字を機械的に写し取っているだけであったから。

(乱馬のバカ……全部アイツのせいだわっ)

あかねはノートから右隣の席が相変わらず空いているのを見ると、ため息を一つ、落とす。
集中できないのはそのせいで、先ほどから意識を授業へと引き戻そうとするが、どうも無理そうだった。



あかねはため息を再び落としながら、席とは反対側――窓際の席だったあかねは、窓の外に視線を向けた。
気分が浮かないのとは裏腹に、晴れ晴れとした綺麗な青空が覗ける。
そしてその空の下では、体育で女子がソフトボールをしており、ボールがピッチャーの手前に転がるのが見えた。

教室は三階で、窓からは運動場全体を見下ろすことができる。
「頑張れ~!」という声援を送るチームメートに、それを背負って一塁へ必死に走って行くバッター。
しかし、ピッチャーは素手で素早くボールを拾うと、そのままの体制から真っ直ぐ一塁に投げた。
アウト。
難しい体制でありながら、見事な身のこなし。
投球の際の腕のしなり方から、経験者なのだろうかと、あかねは次のバッターへモーションを起こすピッチャーに見入っていた。
反して、バッターはぎこちなく構え、バットに振り回されていた。
それでは芯に当てるのが難しそうで、案の定一球も当てられずに終わった。

ピッチャーの活躍に賑わう運動場。
それは、目の前の授業よりも面白そうだった。
何より、黒板に視線を向けても、余所見をしている間に進んでしまった授業に追いつけないと感じていたため、この授業を理解することをすっかり諦めてしまっていた。
シャーペンをノートに構えたまま、それを理由にあかねは外を眺めていた。

新たなバッターが登場する。
模範ともいえる綺麗なフォームで構える新しいバッターに向けてピッチャーはモーションを起こしていた。
面白い対決かもしれない――
ぐっとバットを後ろに引くバッター。
ボールが手を離れたと同時に、バットが空を切った。

(あ……)

空振りではあったが、明らかに今までのバッターとスイングが違った。

ファールで粘るバッターと、負けまいと力強く投げるピッチャー。
期待通りの、体育にしては見事な勝負。
目が離せない、そう思った時、運動場に清々しいとも言える金属音が響いた。

――かつん

と、同時にまるでその金属音に合わせるかのように、間近で音がした。
遠く、運動場に向けていた視線を、窓ガラスに注意深く向ける。

――かつん

窓枠すれすれの所で、再びした音。
僅かに窓が震えた。

(いいところだったのに……全く……)

教師の方を見ると、相変わらず黒板に向かって書きながら、静かに授業を進めていた。
あかねは周囲に気づかれないようにそっと窓を開けた。
少しずつ開く隙間からは眠気を飛ばしてくれそうな、冷たい風が流れる。

(寒……)

腕が入るくらい窓を開け、教師が正面を向く様子がないのを再び確認すると、寒さに耐えられないとばかりに肩をすぼませながら、あかねはそこから下に向けて手だけを出してヒラヒラと振った。








とん、と窓枠が軽い音を立てる。
三階だというのに苦にもならないように、地面から――最早人間離れをした――跳躍と壁を蹴りながらの器用な登り方で、窓枠の僅かな隙間に足をかけ、両手で窓枠を持ちながら教室を覗く、人物。

「わりぃ」

本当にそう思っているのか怪しい笑顔で、あかねの方を見ながらそう小さく呟くと、その窓枠を自分の身体が入る広さに広げ、静かに教室に入った。


「相変わらず、早い登校ね~。乱馬」

あかねは静かに窓を閉め、席に着いた乱馬を軽く睨みつけながら、かすれるような小さな声でそう言う。
周囲は完全に眠りについており、窓際一番後ろという席もあるのか、乱馬の登場にも気づいていない。
あろうことか教師までも。
気配を消すのは乱馬の得意技。
修行の成果はこんな所でも役に立つのか、とあかねは毎度のことながら、呆れていた。

「……仕方ねーだろっ。シャンプーのヤツがしつこくて――」

乱馬はあかねの皮肉に憮然としながら背負っていたかばんを机に下ろすと、ごそごそと筆記用具や教科書、ノートなど、一応授業の用意を始めていた。

「ふ~ん……」
「なんだよ」
「別に?」

何かを含んだような言葉にムッとしているような乱馬だが、あかねはしれっとそれだけを言うと、もうわかりもしない黒板の方に視線を向けた。

(いつも、そればっかり……)

登校途中までは一緒だった乱馬。
けれど――
最近、朝から通学路で出逢うことが多いシャンプー。
待ち構えていることはわかりきっているが、偶然を装うように、「愛人(アイレン)~運命の出会いね!」と、愛車(自転車)とともに猫なで声で現れたたと思うと、熱烈なアプローチをする。
乱馬はいつも、それを避けようと逃げ出すのがお決まりであった。

一層激しくなったアプローチに、乱馬は相変わらずタジタジ。
そしてあかねも、その二人の姿を見ないフリ、気にしないフリをして、相変わらず放っておくのであった。

こんなことは日常茶飯事。
そして逃げ延び、決まって二時間目に登校して来るのも。
バレているとわかりながら、しかしあわよくば誤魔化そうと、窓から乱馬は来る。
あかねのいる席の傍にある窓に向かって、石を投げ、それを合図にあかねが促す。

そうして、ずっと気になっていた右側の席が埋まる。
文句を言いながらも、それを続けていた。
しかし、埋まった今も、気になる右側。

そして、いつまでこうなのか、とあかねは思う。

傍にいる――隣に並んでいることが多い、親が決めた許婚。
二人は式を挙げる寸でまで行ったこともあったが、しかし周囲のライバルたちに邪魔されてそれは延期となった。
少し残念な気持ちがありつつも、当人の意思を他所に進んだ話だったから、これで良かったのかもしれない、気持ちが通じ合ったその時には、そう、あの時は互いに思えたはずだった。
だからその日をきっかけに少しは変わると思っていたが――数ヶ月たった今も、親が決めた、それ以上でも、それ以下でもない関係。
微妙な位置でバランスを保っているのであった。








遅刻しておきながら、悪びれることもなく、来て早々すっかり眠りこけている許婚。

「あんたがはっきりすれば、きっとぜ~んぶ解決よ。優柔不断なんだから」

右を気にしないようにと視線を窓の外に向け、ソフトボールの試合の行方を眺めながら、あかねは小さく呟いた。
あかね自身だって歩み寄る勇気を持てないというのに――








「早乙女、いつ来たんだ?」

黒板からようやく離れ、教壇に向いた教師は空いていたはずの席が埋まっていることに気づいた。
あかねはその声に、教師の方を慌てて向く。

「あ、授業始まってからすぐですけど……すみません」
(なんであたしが謝らなくちゃならないのよ!)

そう思いながら、乱馬の失態の度に反射的に謝罪してしまう。
しかもきちんと嘘のフォローつきで。
これは乱馬の許婚としての、一種の"職業病"となりつつある気がしていた。
乱馬のもう一人の許婚、右京に睨まれつつも、幾度となく
――天道から注意しておくように
――早乙女はどうした、天道
など、当たり前のように乱馬のことを聞いてくる周囲の声に慣れてしまっていたせいもあって。


「……お前も大変だな、天道。早乙女のために色々と気を使って」

いつもなら強く反論してしまうのだが、からかう周囲が眠りで静まり返っている中で大きな声を出すことを憚られ、何より複雑な心境を抱いたため、あかねは苦笑するしか出来なかった。
教師は乱馬の姿に怒ることもなく、相変わらずな穏かな声で、まるで微笑ましいとばかりに教壇に佇んでいるのだから――

教師は出席簿を手に取ると、ペンを動かし書き込み始めた。
多分、出席に修正してくれているのだろうと想像はつく。
重役出勤はいつものことだから。






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