らんま1/2の二次創作&日々の徒然なること…? |
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カッカッ、と黒板に次々と書かれてゆく文字。
視線が黒板とノートを何度も往復し、余りにも長い文字の羅列に、首を動かすのにもいい加減疲れて来ている。
あかねはうなじに左手を添えて左右に首を揺らした。
(やだ、皆……)
首を動かした時、視線に入ったクラスメートたち。
ノートを眺めている様に見せかけて、眠りについている者がほとんどであった。
気持ちはわからないでもない。
興味を引くような楽しい話のある授業でもなく、チョークが黒板に当たる音の合間に初老の教師の低い穏かな声で、マニュアル通りの言葉を並べるだけであるのだから。
更に言うならば、昨年までは石油ストーブだけで冬は凍えそうであった教室だったというのに、勉強しやすい環境を――と、最近設置されたエアコンのお陰で暖かく、設置した目的とは逆効果で、間違いなく眠りを促進させていた。
あかねは幸いなのか、眠りには誘われてはいなかった。
しかし、視線をノートに落としても、書いたその意味はわからず、授業を理解出来ない――否、聞いていないという部分では、眠っている皆と変わらない。
意識を授業とは別の場所にすっかりおいており、黒板に羅列された文字を機械的に写し取っているだけであったから。
(乱馬のバカ……全部アイツのせいだわっ)
あかねはノートから右隣の席が相変わらず空いているのを見ると、ため息を一つ、落とす。
集中できないのはそのせいで、先ほどから意識を授業へと引き戻そうとするが、どうも無理そうだった。
あかねはため息を再び落としながら、席とは反対側――窓際の席だったあかねは、窓の外に視線を向けた。
気分が浮かないのとは裏腹に、晴れ晴れとした綺麗な青空が覗ける。
そしてその空の下では、体育で女子がソフトボールをしており、ボールがピッチャーの手前に転がるのが見えた。
教室は三階で、窓からは運動場全体を見下ろすことができる。
「頑張れ~!」という声援を送るチームメートに、それを背負って一塁へ必死に走って行くバッター。
しかし、ピッチャーは素手で素早くボールを拾うと、そのままの体制から真っ直ぐ一塁に投げた。
アウト。
難しい体制でありながら、見事な身のこなし。
投球の際の腕のしなり方から、経験者なのだろうかと、あかねは次のバッターへモーションを起こすピッチャーに見入っていた。
反して、バッターはぎこちなく構え、バットに振り回されていた。
それでは芯に当てるのが難しそうで、案の定一球も当てられずに終わった。
ピッチャーの活躍に賑わう運動場。
それは、目の前の授業よりも面白そうだった。
何より、黒板に視線を向けても、余所見をしている間に進んでしまった授業に追いつけないと感じていたため、この授業を理解することをすっかり諦めてしまっていた。
シャーペンをノートに構えたまま、それを理由にあかねは外を眺めていた。
新たなバッターが登場する。
模範ともいえる綺麗なフォームで構える新しいバッターに向けてピッチャーはモーションを起こしていた。
面白い対決かもしれない――
ぐっとバットを後ろに引くバッター。
ボールが手を離れたと同時に、バットが空を切った。
(あ……)
空振りではあったが、明らかに今までのバッターとスイングが違った。
ファールで粘るバッターと、負けまいと力強く投げるピッチャー。
期待通りの、体育にしては見事な勝負。
目が離せない、そう思った時、運動場に清々しいとも言える金属音が響いた。
――かつん
と、同時にまるでその金属音に合わせるかのように、間近で音がした。
遠く、運動場に向けていた視線を、窓ガラスに注意深く向ける。
――かつん
窓枠すれすれの所で、再びした音。
僅かに窓が震えた。
(いいところだったのに……全く……)
教師の方を見ると、相変わらず黒板に向かって書きながら、静かに授業を進めていた。
あかねは周囲に気づかれないようにそっと窓を開けた。
少しずつ開く隙間からは眠気を飛ばしてくれそうな、冷たい風が流れる。
(寒……)
腕が入るくらい窓を開け、教師が正面を向く様子がないのを再び確認すると、寒さに耐えられないとばかりに肩をすぼませながら、あかねはそこから下に向けて手だけを出してヒラヒラと振った。
とん、と窓枠が軽い音を立てる。
三階だというのに苦にもならないように、地面から――最早人間離れをした――跳躍と壁を蹴りながらの器用な登り方で、窓枠の僅かな隙間に足をかけ、両手で窓枠を持ちながら教室を覗く、人物。
「わりぃ」
本当にそう思っているのか怪しい笑顔で、あかねの方を見ながらそう小さく呟くと、その窓枠を自分の身体が入る広さに広げ、静かに教室に入った。
「相変わらず、早い登校ね~。乱馬」
あかねは静かに窓を閉め、席に着いた乱馬を軽く睨みつけながら、かすれるような小さな声でそう言う。
周囲は完全に眠りについており、窓際一番後ろという席もあるのか、乱馬の登場にも気づいていない。
あろうことか教師までも。
気配を消すのは乱馬の得意技。
修行の成果はこんな所でも役に立つのか、とあかねは毎度のことながら、呆れていた。
「……仕方ねーだろっ。シャンプーのヤツがしつこくて――」
乱馬はあかねの皮肉に憮然としながら背負っていたかばんを机に下ろすと、ごそごそと筆記用具や教科書、ノートなど、一応授業の用意を始めていた。
「ふ~ん……」
「なんだよ」
「別に?」
何かを含んだような言葉にムッとしているような乱馬だが、あかねはしれっとそれだけを言うと、もうわかりもしない黒板の方に視線を向けた。
(いつも、そればっかり……)
登校途中までは一緒だった乱馬。
けれど――
最近、朝から通学路で出逢うことが多いシャンプー。
待ち構えていることはわかりきっているが、偶然を装うように、「愛人(アイレン)~運命の出会いね!」と、愛車(自転車)とともに猫なで声で現れたたと思うと、熱烈なアプローチをする。
乱馬はいつも、それを避けようと逃げ出すのがお決まりであった。
一層激しくなったアプローチに、乱馬は相変わらずタジタジ。
そしてあかねも、その二人の姿を見ないフリ、気にしないフリをして、相変わらず放っておくのであった。
こんなことは日常茶飯事。
そして逃げ延び、決まって二時間目に登校して来るのも。
バレているとわかりながら、しかしあわよくば誤魔化そうと、窓から乱馬は来る。
あかねのいる席の傍にある窓に向かって、石を投げ、それを合図にあかねが促す。
そうして、ずっと気になっていた右側の席が埋まる。
文句を言いながらも、それを続けていた。
しかし、埋まった今も、気になる右側。
そして、いつまでこうなのか、とあかねは思う。
傍にいる――隣に並んでいることが多い、親が決めた許婚。
二人は式を挙げる寸でまで行ったこともあったが、しかし周囲のライバルたちに邪魔されてそれは延期となった。
少し残念な気持ちがありつつも、当人の意思を他所に進んだ話だったから、これで良かったのかもしれない、気持ちが通じ合ったその時には、そう、あの時は互いに思えたはずだった。
だからその日をきっかけに少しは変わると思っていたが――数ヶ月たった今も、親が決めた、それ以上でも、それ以下でもない関係。
微妙な位置でバランスを保っているのであった。
遅刻しておきながら、悪びれることもなく、来て早々すっかり眠りこけている許婚。
「あんたがはっきりすれば、きっとぜ~んぶ解決よ。優柔不断なんだから」
右を気にしないようにと視線を窓の外に向け、ソフトボールの試合の行方を眺めながら、あかねは小さく呟いた。
あかね自身だって歩み寄る勇気を持てないというのに――
「早乙女、いつ来たんだ?」
黒板からようやく離れ、教壇に向いた教師は空いていたはずの席が埋まっていることに気づいた。
あかねはその声に、教師の方を慌てて向く。
「あ、授業始まってからすぐですけど……すみません」
(なんであたしが謝らなくちゃならないのよ!)
そう思いながら、乱馬の失態の度に反射的に謝罪してしまう。
しかもきちんと嘘のフォローつきで。
これは乱馬の許婚としての、一種の"職業病"となりつつある気がしていた。
乱馬のもう一人の許婚、右京に睨まれつつも、幾度となく
――天道から注意しておくように
――早乙女はどうした、天道
など、当たり前のように乱馬のことを聞いてくる周囲の声に慣れてしまっていたせいもあって。
「……お前も大変だな、天道。早乙女のために色々と気を使って」
いつもなら強く反論してしまうのだが、からかう周囲が眠りで静まり返っている中で大きな声を出すことを憚られ、何より複雑な心境を抱いたため、あかねは苦笑するしか出来なかった。
教師は乱馬の姿に怒ることもなく、相変わらずな穏かな声で、まるで微笑ましいとばかりに教壇に佇んでいるのだから――
教師は出席簿を手に取ると、ペンを動かし書き込み始めた。
多分、出席に修正してくれているのだろうと想像はつく。
重役出勤はいつものことだから。
視線が黒板とノートを何度も往復し、余りにも長い文字の羅列に、首を動かすのにもいい加減疲れて来ている。
あかねはうなじに左手を添えて左右に首を揺らした。
(やだ、皆……)
首を動かした時、視線に入ったクラスメートたち。
ノートを眺めている様に見せかけて、眠りについている者がほとんどであった。
気持ちはわからないでもない。
興味を引くような楽しい話のある授業でもなく、チョークが黒板に当たる音の合間に初老の教師の低い穏かな声で、マニュアル通りの言葉を並べるだけであるのだから。
更に言うならば、昨年までは石油ストーブだけで冬は凍えそうであった教室だったというのに、勉強しやすい環境を――と、最近設置されたエアコンのお陰で暖かく、設置した目的とは逆効果で、間違いなく眠りを促進させていた。
あかねは幸いなのか、眠りには誘われてはいなかった。
しかし、視線をノートに落としても、書いたその意味はわからず、授業を理解出来ない――否、聞いていないという部分では、眠っている皆と変わらない。
意識を授業とは別の場所にすっかりおいており、黒板に羅列された文字を機械的に写し取っているだけであったから。
(乱馬のバカ……全部アイツのせいだわっ)
あかねはノートから右隣の席が相変わらず空いているのを見ると、ため息を一つ、落とす。
集中できないのはそのせいで、先ほどから意識を授業へと引き戻そうとするが、どうも無理そうだった。
あかねはため息を再び落としながら、席とは反対側――窓際の席だったあかねは、窓の外に視線を向けた。
気分が浮かないのとは裏腹に、晴れ晴れとした綺麗な青空が覗ける。
そしてその空の下では、体育で女子がソフトボールをしており、ボールがピッチャーの手前に転がるのが見えた。
教室は三階で、窓からは運動場全体を見下ろすことができる。
「頑張れ~!」という声援を送るチームメートに、それを背負って一塁へ必死に走って行くバッター。
しかし、ピッチャーは素手で素早くボールを拾うと、そのままの体制から真っ直ぐ一塁に投げた。
アウト。
難しい体制でありながら、見事な身のこなし。
投球の際の腕のしなり方から、経験者なのだろうかと、あかねは次のバッターへモーションを起こすピッチャーに見入っていた。
反して、バッターはぎこちなく構え、バットに振り回されていた。
それでは芯に当てるのが難しそうで、案の定一球も当てられずに終わった。
ピッチャーの活躍に賑わう運動場。
それは、目の前の授業よりも面白そうだった。
何より、黒板に視線を向けても、余所見をしている間に進んでしまった授業に追いつけないと感じていたため、この授業を理解することをすっかり諦めてしまっていた。
シャーペンをノートに構えたまま、それを理由にあかねは外を眺めていた。
新たなバッターが登場する。
模範ともいえる綺麗なフォームで構える新しいバッターに向けてピッチャーはモーションを起こしていた。
面白い対決かもしれない――
ぐっとバットを後ろに引くバッター。
ボールが手を離れたと同時に、バットが空を切った。
(あ……)
空振りではあったが、明らかに今までのバッターとスイングが違った。
ファールで粘るバッターと、負けまいと力強く投げるピッチャー。
期待通りの、体育にしては見事な勝負。
目が離せない、そう思った時、運動場に清々しいとも言える金属音が響いた。
――かつん
と、同時にまるでその金属音に合わせるかのように、間近で音がした。
遠く、運動場に向けていた視線を、窓ガラスに注意深く向ける。
――かつん
窓枠すれすれの所で、再びした音。
僅かに窓が震えた。
(いいところだったのに……全く……)
教師の方を見ると、相変わらず黒板に向かって書きながら、静かに授業を進めていた。
あかねは周囲に気づかれないようにそっと窓を開けた。
少しずつ開く隙間からは眠気を飛ばしてくれそうな、冷たい風が流れる。
(寒……)
腕が入るくらい窓を開け、教師が正面を向く様子がないのを再び確認すると、寒さに耐えられないとばかりに肩をすぼませながら、あかねはそこから下に向けて手だけを出してヒラヒラと振った。
とん、と窓枠が軽い音を立てる。
三階だというのに苦にもならないように、地面から――最早人間離れをした――跳躍と壁を蹴りながらの器用な登り方で、窓枠の僅かな隙間に足をかけ、両手で窓枠を持ちながら教室を覗く、人物。
「わりぃ」
本当にそう思っているのか怪しい笑顔で、あかねの方を見ながらそう小さく呟くと、その窓枠を自分の身体が入る広さに広げ、静かに教室に入った。
「相変わらず、早い登校ね~。乱馬」
あかねは静かに窓を閉め、席に着いた乱馬を軽く睨みつけながら、かすれるような小さな声でそう言う。
周囲は完全に眠りについており、窓際一番後ろという席もあるのか、乱馬の登場にも気づいていない。
あろうことか教師までも。
気配を消すのは乱馬の得意技。
修行の成果はこんな所でも役に立つのか、とあかねは毎度のことながら、呆れていた。
「……仕方ねーだろっ。シャンプーのヤツがしつこくて――」
乱馬はあかねの皮肉に憮然としながら背負っていたかばんを机に下ろすと、ごそごそと筆記用具や教科書、ノートなど、一応授業の用意を始めていた。
「ふ~ん……」
「なんだよ」
「別に?」
何かを含んだような言葉にムッとしているような乱馬だが、あかねはしれっとそれだけを言うと、もうわかりもしない黒板の方に視線を向けた。
(いつも、そればっかり……)
登校途中までは一緒だった乱馬。
けれど――
最近、朝から通学路で出逢うことが多いシャンプー。
待ち構えていることはわかりきっているが、偶然を装うように、「愛人(アイレン)~運命の出会いね!」と、愛車(自転車)とともに猫なで声で現れたたと思うと、熱烈なアプローチをする。
乱馬はいつも、それを避けようと逃げ出すのがお決まりであった。
一層激しくなったアプローチに、乱馬は相変わらずタジタジ。
そしてあかねも、その二人の姿を見ないフリ、気にしないフリをして、相変わらず放っておくのであった。
こんなことは日常茶飯事。
そして逃げ延び、決まって二時間目に登校して来るのも。
バレているとわかりながら、しかしあわよくば誤魔化そうと、窓から乱馬は来る。
あかねのいる席の傍にある窓に向かって、石を投げ、それを合図にあかねが促す。
そうして、ずっと気になっていた右側の席が埋まる。
文句を言いながらも、それを続けていた。
しかし、埋まった今も、気になる右側。
そして、いつまでこうなのか、とあかねは思う。
傍にいる――隣に並んでいることが多い、親が決めた許婚。
二人は式を挙げる寸でまで行ったこともあったが、しかし周囲のライバルたちに邪魔されてそれは延期となった。
少し残念な気持ちがありつつも、当人の意思を他所に進んだ話だったから、これで良かったのかもしれない、気持ちが通じ合ったその時には、そう、あの時は互いに思えたはずだった。
だからその日をきっかけに少しは変わると思っていたが――数ヶ月たった今も、親が決めた、それ以上でも、それ以下でもない関係。
微妙な位置でバランスを保っているのであった。
遅刻しておきながら、悪びれることもなく、来て早々すっかり眠りこけている許婚。
「あんたがはっきりすれば、きっとぜ~んぶ解決よ。優柔不断なんだから」
右を気にしないようにと視線を窓の外に向け、ソフトボールの試合の行方を眺めながら、あかねは小さく呟いた。
あかね自身だって歩み寄る勇気を持てないというのに――
「早乙女、いつ来たんだ?」
黒板からようやく離れ、教壇に向いた教師は空いていたはずの席が埋まっていることに気づいた。
あかねはその声に、教師の方を慌てて向く。
「あ、授業始まってからすぐですけど……すみません」
(なんであたしが謝らなくちゃならないのよ!)
そう思いながら、乱馬の失態の度に反射的に謝罪してしまう。
しかもきちんと嘘のフォローつきで。
これは乱馬の許婚としての、一種の"職業病"となりつつある気がしていた。
乱馬のもう一人の許婚、右京に睨まれつつも、幾度となく
――天道から注意しておくように
――早乙女はどうした、天道
など、当たり前のように乱馬のことを聞いてくる周囲の声に慣れてしまっていたせいもあって。
「……お前も大変だな、天道。早乙女のために色々と気を使って」
いつもなら強く反論してしまうのだが、からかう周囲が眠りで静まり返っている中で大きな声を出すことを憚られ、何より複雑な心境を抱いたため、あかねは苦笑するしか出来なかった。
教師は乱馬の姿に怒ることもなく、相変わらずな穏かな声で、まるで微笑ましいとばかりに教壇に佇んでいるのだから――
教師は出席簿を手に取ると、ペンを動かし書き込み始めた。
多分、出席に修正してくれているのだろうと想像はつく。
重役出勤はいつものことだから。
一日を想う10のお題/通常学校編 より 配布サイト:tricky voice
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